コレクションという名の執着が、いつしか生活空間を侵食し、ついには住まいをゴミ屋敷へと変貌させてしまうことがあります。特に、数千冊単位で単行本を所有する漫画愛好家にとって、この境界線は非常に曖昧で危険なものです。かつては美しく整頓されていたはずの書棚も、収納の限界を超えた瞬間に崩壊が始まります。棚に入りきらなくなった本は床に積み上げられ、やがてそれは「塔」となり、さらには「壁」へと成長していきます。漫画本は一冊一冊が重く、それが数百、数千と重なると、床にかかる荷重はトン単位に達します。古い木造住宅であれば、床が抜けるという実害すら生じかねません。さらに深刻なのは、紙という素材が持つ性質です。大量の紙は湿気を吸い込み、カビやダニの温床となります。本に囲まれて眠る幸福感は、いつの間にか埃っぽい空気の中での浅い眠りへと変わり、健康を徐々に損なっていきます。こうした状態に陥る人々の多くは、漫画を一冊たりとも捨てられないという強い強迫観念を抱いています。「これは絶版だから」「これは思い出の作品だから」という正当な理由を積み重ねるうちに、自分自身の生活動線すら失われていくのです。食卓の上も、ソファの上も、さらには浴室の入り口までもが漫画の山で塞がれ、生活は著しく不自由になります。しかし、本人にとってはそれらが「ゴミ」ではなく「宝物」であるため、外部からの助言もなかなか届きません。大掃除を決意したきっかけを聞くと、多くの人が「読みたい本がすぐに見つからなくなったこと」を挙げます。皮肉なことに、愛する漫画をより楽しむために集めていたはずが、物量の海に溺れて目的を見失ってしまうのです。プロの清掃業者が入る際、まず直面するのはこの圧倒的な重量です。一箱に詰め込まれた漫画は女性一人では持ち上げられないほど重く、搬出作業は難航を極めます。それでも、作業が進み、床が見え、新鮮な空気が部屋に流れ込んだとき、依頼主の多くは憑き物が落ちたような表情を見せます。大切なのは所有する数ではなく、その作品をいかに慈しめる環境にあるかということ。ゴミ屋敷化したコレクションルームを清算することは、本当の意味で作品を愛する自分を取り戻すための、痛みを伴うリセットなのです。
紙の山に埋もれた漫画愛好家の悲劇