かつての私の口癖は、「忙しくて、片付ける時間がない」でした。仕事のプレッシャーと長時間労働で、平日は疲れ果てて帰宅し、休日はただ眠って過ごすだけ。私のワンルームのアパートは、その心の荒廃を映し出すかのように、いつしか、脱ぎ散らかした服と、読み終えた雑誌、そしてコンビニの袋で、足の踏み場もないほどの「汚部屋」と化していました。当時は、部屋の汚さが、自分のストレスをさらに増幅させているとは、夢にも思っていませんでした。むしろ、散らかった部屋は、誰の目も気にしなくていい、唯一の聖域のようにさえ感じていました。しかし、私の心と体は、確実に悲鳴を上げていました。家にいても、なぜか常に落ち着かず、イライラしていました。探し物ばかりしていて、朝の準備にも時間がかかり、遅刻寸前で家を飛び出す毎日。何よりも辛かったのは、友人からの誘いを、「部屋が汚いから」という理由で、断り続けなければならなかったことです。次第に、私は人との交流を避けるようになり、深い孤独感に苛まれました。転機が訪れたのは、ある週末。高熱を出して寝込んでしまった時でした。薬を飲もうにも、コップ一つ見つからない。食べ物を探そうにも、冷蔵庫の中は、いつのものか分からない物で溢れている。ゴミの中で、ただ一人、孤独と絶望に打ちひしがれながら、私は涙を流しました。「もう、こんな生活は嫌だ」。その一心で、私は、熱が下がると同時に、部屋の片付けを開始しました。何日もかかりましたが、ゴミ袋を何十個も出し、床が見え、窓から光が差し込んできた時、私は、部屋の空気だけでなく、自分の心の中の澱んだ空気までもが、入れ替わったような感覚を覚えました。部屋が綺麗になってから、私の生活は一変しました。時間に余裕が生まれ、心は穏やかになり、何よりも、自分自身を少しだけ好きになることができたのです。部屋を片付けることは、自分の心と人生を、取り戻すことなのだと、私はこの経験から学びました。